説明

グルココルチコイドおよびグルココルチコイド誘導体のリポソーム性組成物

本発明は、リポソーム中に安定的に封入されたグルココルチコイドまたはグルココルチコイド誘導体を含む医薬組成物を提供する。グルココルチコイドまたはグルココルチコイド誘導体は、pKaが11以下でありpH 7におけるlogDが-2.5から1.5の間の範囲である両親媒性弱塩基性グルココルチコイドまたはグルココルチコイド誘導体;pKaが3.5を超える値でありpH 7におけるlogDが-2.5から1.5の間の範囲である両親媒性弱酸性GCまたはGC誘導体から選択される。本発明による医薬組成物の治療効果は、多発性硬化症および癌の適したモデルによってin vivoで示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にリポソーム技術に関し、および特に体内でのグルココルチコイドの送達のためのこの技術の使用に関する。
【先行技術】
【0002】
以下は、本発明の分野における技術水準を記載するために適切と考えられる先行技術の一覧である。
【0003】
Gonzalez-Rothi, Ricardo J et al. Pharmaceutical Research 13(11):1699-1703 (1996);
Schmidt J et al. Brain 126(8):1895-1904 (2003);
Fildes FJ et al. J Pharm. Pharmacol. 30(6):337-42 (1978);
Mishina EV et al Pharm Res 13(1):141-5 (1996);
Gonzalez-Rothi, Ricardo J et al. Pharmaceutical Research 13(11):1699-1703 (1996);
Almawi WY and Melemedjian OK, J Leukoc Biol 71: 9 - 15 (2002);
Coleman RE Biotherapy 4:37 - 44 (1992);
Folkman J, et al. Science 221:719 - 725 (1983);
Swain S.M., Endocrine therapies of cancer In, Cancer Chemotherapy and Biotherapy, 2nd Ed., Eds., Chabner BA, and Longo DL, Lippincott-Raven, Philadelphia, 1996, (pp 59-108);
Haskell CM. In, Cancer Treatment, 4th Edition, Edited by Haskell CM, and Berek JS. WB Saunders Co, Philadelphia, 1995 (pp 78-80, pp 105-106, pp 151-152).
Josbert M. Metselaar, Liposomal targeting of glucocorticoids. A novel treatment approach for inflammatory disorders. Chapter 6, pp 91-106, chapter 7, pp 107-122, 2003, Ph.D. Thesis, Utrecht University, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Veterinary Medicine ISBN 90-393-3285-1。
【背景技術】
【0004】
グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は、ほとんど全ての脊椎動物組織の細胞で見られるコルチゾール受容体に結合し、類似効果を引き起こす能力を有することが特徴付けられる、ステロイドホルモンの1クラスである。グルココルチコイドは、特異的受容体、標的細胞および効果から、性ステロイドといったその他のホルモンから区別される。コルチゾール(または、ヒドロコルチゾン)は、最も重要な天然のヒトグルココルチコイドである。
【0005】
グルココルチコイドは、強力な抗炎症性および免疫抑制の特性を有する。このことは、これらが薬理的な量で投与された場合に特に明らかであるが、生理学的な免疫応答においても重要である。それゆえグルココルチコイドは、関節炎または皮膚炎といった炎症性の症状を治療する薬剤として、および自己免疫疾患といった症状の付加的な治療法として広く使用される。一方で、薬剤としての投与によってグルココルチコイドレベルの過剰が生じ、また副腎皮質細胞増殖は多くのシステムに副作用をもたらす。例えば、骨形成の阻害、カルシウム吸収の抑制および創傷治癒の遅延といった影響が生じる。
【0006】
コルチゾールよりずっと強力なものを含む、様々な合成グルココルチコイドが、治療的な使用のために開発されてきた。それらは、薬物動態学的に(pharmacokinetics)(吸収係数、半減期、分布容積、排除)および薬動力学的に(pharmacodynamics)(例えば、鉱質コルチコイド活性の能力;ナトリウム(Na+)および水の保持率)異なる。それらは、腸管を通して、よく吸収されるため、主に経口的に(口から)投与されるが、皮膚からといったその他の局所的な方法によっても投与される。
【0007】
メチルプレドニゾロン(プレグナ(pregna)-1,4-ジエン-3,20-ジオン, 11,17,21-トリヒドロキシ-6-メチル-,(6α, 11β)、C22H30O5、分子量374.48)は、治療的に有効な合成グルココルチコイド薬剤の1例であり、その疎水的な特質のために普通経口投与される。ほとんどの副腎皮質性のステロイドと同様に、メチルプレドニゾロンは、典型的に、抗炎症の目的のために使用される。しかしながら、グルココルチコイドは、代謝および免疫応答の変化を含む幅広い影響を及ぼす。その他の副腎皮質ステロイドと同様に、メチルプレドニゾロンが有効となる疾病または病理学的症状の数は、むしろ多い。通常の使用には、関節炎治療、および様々な呼吸器疾患が原因となる気管支の炎症の短期治療が含まれる。高い有効性の一方で、特に長期治療に関連して、重大な有害事象が高頻度に発生するために、全身性の投与は制限される。
【0008】
グルココルチコイドの全身性の投与の有効性および安全性の研究から、多くの異なる組織において薬剤が重大な活性を有することに加えて、これらの薬剤は、血漿からの排出が急速であることが原因となり、標的部位において有効量を満たすために、大量で高頻度の投与が必要となることがわかった。
【0009】
従って、非経口的な投与のための代替法が検討された。例えば、グルココルチコイドの局所領域(loco-regional)への投与(例えば、喘息における吸入器の使用による投与、および関節炎における関節内注射による投与)の開発により、少ない量のステロイドの使用で、病変部において十分な薬剤レベルを達成し、副作用を最小限に抑えることが可能となった。
【0010】
さらなる方法には、リポソームといった、適した担体を使用して、薬剤に標的組織を標的とさせることを含む。
【0011】
リポソーム中に副腎皮質ステロイドを封入する最初の試みは、Fildes FJらによって行われ[J Pharm. Pharmacol. 30(6):337-42 (1978)]、その研究では、リポソームの脂質二重膜へのステロイドの封入が行われた。この方法は、副腎皮質ステロイドが自然状態で疎水性であるという理解に基づいていた。しかしながら、そのようなリポソームの形成は、臨床応用に適さないことが明らかとなった。
【0012】
「可溶性」グルココルチコイドの開発という努力も行われた。例えば、ヒドロコルチゾンヘミスクシナートナトリウム塩(hydrocortisone hemisuccinate sodium salt)およびメチルプレドニゾロンヘミスクシナートナトリウム塩(Methylprednisolone hemisuccinate sodium salt)といったスクシナート誘導体化ステロイドが含まれる。可溶性グルココルチコイドの別の群は、ステロイドのリン酸化誘導体を含む。ステロイドを水溶性にし、酸性ステロイドを注射に使用できるようにした一方で、これらの「プロドラッグ」は、注射後6時間未満の内に血漿から完全に排出された[Mishina EV et al Pharm Res 13(1):141-5 (1996)]。
【0013】
酸性ステロイドとリポソームの組み合わせも、また検討された。Schmidtらは、リン酸プレドニゾロン(水溶性プロドラッグステロイドの1つ)を封入する、ポリエチレングリコール(PEG)コーティングされた長期循環型の立体的に安定したリポソームを作製し、それが、多発性硬化症の治療において、遊離型のステロイドと比較して有利な効果をもつことを記載している[Schmidt J et al. Brain 126(8):1895-1904 (2003)]。しかしながら、メチルプレドニゾロンヘミスクシナート(弱酸)を同様に封入しようとする試みは、それが不安定な製剤形態となったために失敗した。
【0014】
さらに、水溶性で強酸性のトリアムシノロン誘導体(pKaが2未満)である、リン酸トリアムシノロンアセトニド(triamcinolone acetonide phosphate)の、リポソームへの封入について記述された[Gonzalez-Rothi, Ricardo J et al. Pharmaceutical Research 13(11):1699-1703 (1996)]。リポソーム中に酸性副腎皮質ステロイドを受動的に導入することで、リポソーム性製剤が作製され、肺における症状の治療のための注射可能な投与剤(静脈内または気管内)として、それが使用された。さらに、ex vivo安定性実験において、24時間後において、リポソームは75%を越える酸性副腎皮質ステロイドを保持することが示された。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、両親媒性弱酸形態へと化学的に修飾されたグルココルチコイド(GC)を使用することで、リポソーム中に酸性GCを効果的に導入することができる、という発見に基づく。驚くべきことに、このように作製されたリポソーム性弱酸GCは、安定的であり、すなわち、4℃で14ヶ月間保存した後、内容物の大部分が、劣化していない酸性GCとしてリポソーム中に保持された。リポソームから水または体液中に一旦放出されると、酸性GCは、加水分解され活性型の非酸性GCとなる。
【0016】
従って、第一の側面によると、本発明は、リポソーム中に封入されたGCまたはGC誘導体を含む医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体が、本質的にリポソーム中に6ヶ月、好ましくは10ヶ月およびより好ましくは14ヶ月保持され、GCまたはGC誘導体が以下から選択される医薬組成物を提供する:
i) pKaが11以下であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;
ii) pKaが3.5を超える値であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体。
【0017】
GCまたはGC誘導体は、好ましくは酸性GCまたはGC誘導体であり、すなわち、リポソームから体液中に放出されたときに非酸性の形態に転換されるGCの両親媒性弱酸誘導体である。より明確には、酸性GCは、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート (MPS)である。
【0018】
本発明による好ましいMPS製剤は、水素化ダイズホスファチジルコリン(hydrogenated soybean phosphatidylcholine)(HSPC)、(メチル)ポリエチレングリコールコーティングジステアロイルホスファチジルエタノールアミン (PEG-DSPE)およびコレステロールが55:40:5のモル比で組み合わされて形成された、立体的に安定なリポソームを含む。
【0019】
医薬組成物は、好ましくは、許容できる治療の形態にグルココルチコイドの投与が含まれる何れかの疾病の治療または予防のために使用される。
【0020】
本発明による医薬組成物は、一般に、次の内の少なくとも1つにおいて、非封入型GCよりも優れている:より優れた標的部位への送達、より優れた循環時間、より遅延された排除、副作用の低減、有効性の増大、または治療的指標の増大。
【0021】
医薬組成物は、好ましくは、多発性硬化症の治療または予防に使用される。
【0022】
医薬組成物はまた、好ましくは、ステロイドに感受性を示すとして知られる癌、例えば、リンパ腫、白血病、骨髄腫、乳癌および前立腺癌を含む造血系由来の癌の治療または予防に使用される。
【0023】
本発明はまた、本発明による医薬組成物の作製のためのGCまたはGC誘導体の使用であって、前記GCまたはGC誘導体がリポソーム中に封入され、前記GCまたはGC誘導体が、本質的にリポソーム中に6ヶ月、好ましくは10ヶ月およびより好ましくは14ヶ月保持され、GCまたはGC誘導体が以下から選択される使用を提供する:
i) pKaが11以下であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;
ii) pKaが3.5を超える値であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体。
【0024】
またさらに、本発明は、グルココルチコイド(GC)、好ましくは水に不混和性のGCを、体内の標的部位に送達するための方法であって、前記GCを、請求項1から請求項14の何れか1項にて定義される通りに、その両親媒性弱酸誘導体または両親媒性弱塩基誘導体へと化学的に修飾し、および該両親媒性弱酸誘導体または両親媒性弱塩基誘導体をリポソームに導入することを含む方法を提供する。特に、リポソームは、立体的に安定なリポソームであり、GC誘導体は、リポソーム膜を介したイオンまたはpH勾配の形成(すなわち、能動的充填技術)によってリポソーム中に充填される。
【0025】
またさらに、本発明は、リポソームに封入されたGCまたはGC誘導体を、治療効果を達成するために十分な量で、それを必要とする患者に投与することを含む、疾病または病理学的症状の治療または予防の方法を提供する。
【0026】
好ましくは、方法は、GCまたはGC誘導体を封入するリポソームの注射を含む。
【発明の詳細な説明】
【0027】
グルココルチコイド(GCs)は、炭水化物、および、部分的に、脂肪およびタンパク質の代謝に支配的に影響を与える(および、その他の効果を有する)ホルモンの1ファミリーである。グルココルチコイドは、副腎の周辺領域(皮質)にて作られ、化学的にステロイドとして分類される。コルチゾールは、天然の主要なグルココルチコイドである。それにもかかわらず、グルココルチコイドという用語はまた、研究室で合成される同等なホルモンに適用される。
【0028】
グルココルチコイドの非限定的な一覧は、インターネット上のサイトhttp://www.steraloids.com/にて見ることができ、この一覧は、本出願にそのまま援用される。例えば、プレドニゾロンヘミスクシナート、メチルプレドニゾロンヘミスクシナート、デキサメサゾンヘミスクシナート、アロプレグナノロン(allopregnanolone)ヘミスクシナート; ベクロメタゾン21-ヘミスクシナート; ベタメタゾン21-ヘミスクシナート; ボルデノンヘミスクシナート; プレドニゾロンヘミスクシナート、ナトリウム塩; プレドニゾロン21-ヘミスクシナート; ナンドロロンヘミスクシナート; 19-ノルテストステロン(nortestosterone) ヘミスクシナート; デオキシコルチコステロン21-ヘミスクシナート; デキサメサゾンヘミスクシナート; デキサメサゾンヘミスクシナート: スペルミン; コルチコステロンヘミスクシナート; コルテキソロンヘミスクシナートが含まれる。
【0029】
他の多くの薬剤と同様、遊離形態でのGCの投与は幾つかの不都合な点を有しており、例えば、治療する個人を、GC治療により生じる既知の副作用、血漿からのステロイドの急速な排除などにさらす危険がある。
【0030】
そのような欠点を克服するため、発明者らは、多少疎水性のGCを媒体に効率的におよび安定して充填することは困難であるものの、ステロイドの水溶性誘導体への転換を含む幾分単純な化学的修飾をグルココルチコイドに適用し、誘導体をリポソームに充填することは可能であると想像した。
【0031】
従って、本発明は、リポソーム中に封入されたグルココルチコイド(GC)またはGC誘導体を含む医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体が、本質的にリポソーム中に6ヶ月、好ましくは10ヶ月およびより好ましくは14ヶ月(4℃での保存の場合に)保持され、GCまたはGC誘導体が以下から選択される、安定的な医薬組成物を提供する:
i) pKaが11以下であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;
ii) pKaが3.5を超える値であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲、好ましくは約-1.5から約1.0の間の範囲である、両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体。
【0032】
本出願で使用される「GC誘導体」という用語は、化学基の挿入またはGC分子からの化学基の除去のどちらかによって化学的に修飾されたGC分子であって、該修飾によって、適用される修飾の種類に依存して両親媒性弱塩基または両親媒性弱酸に前記分子が転換されたGC分子を意味する。ステロイドの化学に精通した当業者から十分理解されるように、自然状態のこれらの親水性の分子は、少なくとも1つの化学的に活性な基を有し、この基が、弱酸または弱塩基と結合し、それぞれ両親媒性弱酸または両親媒性弱塩基分子を形成することができる。ステロイドの一般構造に典型的に含まれる化学的に活性な基の非限定的な例は、化学に精通した当業者に知られる通り、ヒドロキシル、カルボキシル等である。本発明の状況において、GC誘導体はまた、活性を有し、非修飾型で、両親媒性のおよび弱酸性のGCを含んでよいことが留意されるべきである。
【0033】
一側面によるGC誘導体は、プロドラッグであり、すなわち、リポソーム中に存在している形態においては医薬的な活性を有しない。リポソームからの放出によって、GCプロドラッグは、エステラーゼといった酵素によって、その医薬的に活性な疎水性の形態に転換される。
【0034】
さらに別の側面に従って、リポソームに封入されたGCは、すでに医薬的に活性な形態であり、活性化状態となるために何れの酵素的処理を受ける必要がない。第二の側面によると、GC自体が、弱い両親媒性酸または塩基である。
【0035】
「両親媒性弱酸」という用語は、疎水基および親水基の両方を有する分子であって、本質的に疎水基を構成するGCのステロイド骨格を有し、一方で弱酸成分が上述した修飾によってGCにつながり本質的に親水基を構成している分子を意味するよう本出願で使用される。GC両親媒性弱酸またはGC誘導体は、以下の物理的特徴によって特徴付けられる:
- pKa:3.0を超える、好ましくは3.5を超える、より好ましくは約3.5から約6.5の間の範囲のpKaを有している;
- 分配係数:pH 7.0のn-オクタノール/緩衝液(水相)システムにおいて、約-2.5から約1.5の間の範囲の、およびより好ましくは約-1.5から約1.0の間のlogDを有する。
【0036】
そのようなGCの両親媒性弱酸誘導体は、GCをジカルボン酸またはトリカルボン酸と反応させることにより、またはGCをアミノ酸のアミノ基につなぐことにより、当該技術に精通した当業者に既知の技術により得ることができる。
【0037】
GC誘導体の具体的な例は、ベタメタゾン21-ヘミスクシナートプレドニゾロンヘミスクシナートナトリウム塩; プレドニゾロン21-ヘミスクシナート; デキサメサゾンヘミスクシナート; デキサメサゾンヘミスクシナート: スペルミン; コルチコステロンヘミスクシナートプレドニゾロンヘミスクシナート; メチルプレドニゾロンヘミスクシナート; デキサメサゾンヘミスクシナートを含むが、これらに限定されない。
【0038】
「両親媒性弱塩基」という用語は、疎水基および親水基の両方を有する分子であって、本質的に疎水基を構成するGCのステロイド骨格を有し、一方で弱塩基成分が上述した修飾によってGCにつながり本質的に親水基を構成している分子を意味するよう本出願で使用される。GC両親媒性弱塩基誘導体は、以下の物理的特徴によって特徴付けられる:
- pKa:11.0未満、より好ましくは約11.0から7.5の間のpKaを有している;
- 分配係数: n-オクタノール/緩衝液(水相)システムにおいて、約-2.5から約1.5の間の範囲の、およびより好ましくは約-1.5から約1.0の間のlogDを有する。
【0039】
そのようなGCの両親媒性弱塩基誘導体は、GCとアルギニンまたはリジンといった塩基性アミノ酸とを反応させることによって、またはGCと、カルボキシ基を介して何れかのアミノ酸とを反応させ、アミノ基は未反応の状態とすることによって、またはGCと、スペルミジンもしくはスペルミンといったポリアミンとを反応させることによって得てよい。
【0040】
「リポソーム」という用語は、脂質ベースの二重膜媒体を意味するよう本出願で使用される。リポソームは、医薬的目的、美容目的、および生化学的目的のための、薬剤、ペプチド、タンパク質、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムの生体適合性の担体として広く使用される。脂質の粒子サイズにおける、および物理的パラメーターにおける莫大な多機能性は、広範囲な応用のためのテーラーメードな媒体の構築のための魅力的な可能性をもたらす。異なる応用(例えば、非経口、経皮、経肺、鼻腔内および経口投与)のための多様な脂質製剤(リポソーム、リポプレックス(lipoplexes)、キュービックフェーズ(cubic phases)、乳剤、ミセルおよび固体脂質ナノ粒子)の異なる性質(サイズ、コロイド性の挙動、相転移、電荷および多形性)が利用可能であり、当該技術に精通する当業者に既知である。これらの性質は、リポソームの関連した性質に影響を及ぼし、例えば、保存時および血清中におけるリポソームの安定性、積荷物質の体内分布および受動的または能動的な(特定の)標的化、ならびに薬剤放出および膜の分解および/または融合をどのように引き起こすかに影響を及ぼす。
【0041】
本発明は、様々なリポソーム組成物に適用可能であり、当該技術に精通した当業者は、GCまたはGC誘導体の選択、最終的なリポソーム性組成物の投与の様式等を含む、様々な考慮に依存して、リポソームの成分をどのように選択するかということがわかるだろう。
【0042】
リポソームは、主にリポソーム形成脂質で構成されるものであり、該リポソーム形成脂質は、本質的に、充填パラメーターが0.74-1.0と特徴付けられる、または相加的充填パラメーター(リポソームのそれぞれの成分の充填パラメーターにそれぞれの成分のモル分率をかけたものの総計)が0.74から1の間である脂質混合物であると特徴付けられる、両親媒性分子である。
【0043】
本出願ではリン脂質が例示されるリポソーム形成脂質は、水中で二重膜小胞を形成する。リポソームはまた、脂質二重膜に組み入れられるその他の脂質を含むことができ、そのような脂質とは例えば、二重膜内部の疎水性領域に接する疎水性成分、および二重膜外部の極性表面に位置するヘッドグループを有するホスファチジルエタノールアミン(PE)およびステロールである。付加的で、非リポソーム形成性の脂質成分の種類およびレベルは、脂質二重膜の全成分の相加的充填パラメーターが0.74から1.0の間に維持されるように決定されるだろう。
【0044】
リポソーム形成脂質は好ましくはグリセロール骨格を有するものであり、ヘッドグループにおける少なくとも1つ、好ましくは2つの水酸基が、好ましくはアシル鎖で置換され(アシルまたはジアシル誘導体を形成し)、しかしながら、また、アルキルもしくはアルケニル鎖、リン酸基または、同様な組み合わせもしくは誘導体で置換されてよく、およびヘッドグループにおいて化学的に活性な基(例えば、アミン、酸、エステル、アルデヒドまたはアルコール)を含み、これによって極性ヘッドグループを形成してよい。スフィンゴミエリンといったスフィンゴ脂質は、グリセロリン脂質のよい代替物である。
【0045】
典型的に、例えばアシル、アルキルまたはアルケニル鎖といった置換鎖は、長さにおいて14から約24の間の数の炭素原子を有し、十分に、部分的に水素付加された、または水素付加されていない脂質といったように、異なる飽和度を有する。様々な合成小胞形成脂質および天然小胞形成脂質が存在し、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG); 卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC); ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS) 1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、およびスフィンゴミエリン(SM)といったスフィンゴリン脂質といった、12-24炭素原子アシルまたはアルキル鎖を有するリン脂質を含む。炭化水素鎖(アシル/アルキル/アルケニル鎖)が異なる飽和度を有する、上述した脂質およびリン脂質は、市販のものから得ることができ、または刊行物に記載された方法にしたがって作製することができる。リポソームに含まれるその他の適した脂質は、グリセロ糖脂質およびスフィンゴ糖脂質およびステロール(例えば、コレステロールまたは植物ステロール)である。
【0046】
好ましくは、リン脂質は、卵ホスファチジルコリン(EPC)、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)または水素化ダイズホスファチジルコリン(hydrogenated soybean phosphatidylcholine)(HSPC)である。
【0047】
陽イオン性脂質(モノおよびポリカチオン)もまた、それが脂質組成物のマイナーな成分として、または主成分もしくは唯一の成分として含むことができる場合、本発明によるリポソームにおける使用に適している。そのような陽イオン性脂質は、典型的に、ステロール、アシルまたはジアシル鎖といった親油性成分を有しており、脂質は全体的に実質正電荷を有する。好ましくは、脂質のヘッドグループは、正電荷を有する。モノカチオンの脂質には、例えば、1,2-ジミリストイル-3-リメチルアンモニウムプロパン(DMTAP) 1,2-ジオレイルオキシ-3-(トリメチルアミノ) プロパン(DOTAP); N-[1-(2,3,- ジテトラデシルオキシ) プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE); N-[1-(2,3,-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル-アンモニウムブロミド (DORIE); N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ) プロピル]-N,N,N- トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA); 3β[N-(N',N'- ジメチルアミノエタン) カルバモイル] コレステロール(DC-Chol); およびジメチル-ジオクタデシルアンモニウム(DDAB)を含む。
【0048】
ポリカチオンの脂質の例は、モノカチオンの脂質と同様な親油性成分を含み、そこにポリカチオン成分が結合される。典型的なポリカチオン成分は、スペルミンまたはスペルミジン(DOSPAおよびDOSPERによって例証される)、またはポリリジンもしくはその他のポリアミン脂質といったペプチドを含む。例えば、中性脂質(DOPE)は、ポリリジンで誘導体化し、陽イオン性脂質とすることができる。ポリカチオンの脂質には、N-[2-[[2,5-ビス[3-アミノプロピル)アミノ]-1-オキソペンチル]アミノ]エチル]-N,N-ジメチル-2,3-ビス[(1-オキソ-9-オクタデセニル)オキシ]-1-プロパンアンモニウム (DOSPA)、およびセラミドカルバモイルスペルミン(CCS)を含むが、これらに限定されない。
【0049】
リポソームを形成する脂質混合物は、特定の流動性または剛性を達成するため、血清中のリポソームの安定性を調節するため、およびリポソーム中に封入された薬剤の放出率を調節するために選択することができる。
【0050】
さらに、リポソームはまた、親水性ポリマーで誘導体化され、リポポリマー(lipopolymers)という用語で知られる新たな実体(entities)となった脂質を含んでよい。リポポリマーは好ましくは、ヘッドグループをポリマーで修飾され、750 Da以上の分子量を有する脂質を含む。ヘッドグループは極性または非極性であってよく、しかしながら、好ましくは、大きく(>750Da)、高度に水和された(1ヘッドグループ当り、少なくとも60分子の水が水和)流動的なポリマーが結合された、極性ヘッドグループである。親水性ポリマーヘッドグループの脂質領域への結合は、共有結合または非共有結合であってよく、しかしながら、好ましくは(任意にリンカーを介した)共有結合の形成を介す。親水性ポリマー鎖の最外側表面は、リポソームに、in vivoでの長期の血液循環寿命(blood circulation lifetime)を与えるのに有効である。リポポリマーはリポソームに2つの異なる方法で導入してよい:(a)リポポリマーを脂質混合物に加えリポソームを形成する方法。リポポリマーは、リポソーム二重膜の内側および外側のリーフレットに取り込まれおよび露出されるだろう[Uster P.S. et al. FEBBS Letters 386:243 (1996)];または(b)最初にリポソームを作製し、次にリポポリマーおよびリポソーム形成脂質のTmを超える温度でインキュベーションすることによって、または短期間マイクロ波照射にさらすことによって、前記形成したリポソームの外部リーフレットにリポポリマーを取り込む方法。
【0051】
リポソーム形成脂質から構成される小胞の作製およびそのような脂質の親水性ポリマーによる誘導体化(それによるリポポリマーの形成)は、例えばTiroshら[Tirosh et al., Biopys. J., 74(3):1371-1379, (1998)] および本出願に援用される米国特許第5,013,556; 5,395,619; 5,817,856; 6,043,094, 6,165,501号、ならびにWO 98/07409において記述されてきた。リポポリマーは、非イオン性リポポリマー(時折、中性リポポリマーまたは無電荷リポポリマーとも言及される)または正味負電荷もしくは正味正電荷を有するリポポリマーであってよい。
【0052】
脂質に結合してよいポリマーは多数存在する。脂質修飾因子として典型的に使用されるポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸(polylactic) (ポリラクチドとも呼ばれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも呼ばれる)、ポリ乳酸-ポリグリコール酸(apolylactic-polyglycolic acid)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルトアミド(polyaspartamide)、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリラート、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースといった誘導体化セルロースを含むが、これらに限定されない。ポリマーは、ホモポリマーとして、またはブロックもしくはランダムコポリマーとして使用してよい。
【0053】
リポポリマーに誘導体化される脂質は、中性、負に帯電、ならびに正に帯電してよく、すなわち、特定の電荷を有す(または有しない)とする制限がない一方で、最も一般に使用されおよび商業的に利用可能なリポポリマーに誘導体化される脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)に基づくもの、通常、ジステアリルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)である。
【0054】
本発明に使用されるリポポリマーの特定のファミリーは、DSPEに結合したモノメチル化PEG(異なるPEGの鎖長を有す、メチル化PEGは本出願ではPEGとして略語で呼ばれる)を含み、それは、PEGポリマーがカルバメート結合(carbamate linkage)を介して脂質につながり、その結果負に帯電したリポポリマーとなる。その他のリポポリマーは、中性メチルポリエチレングリコールジステアロイルグリセロール(mPEG-DSG)および中性メチルポリエチレングリコールオキシカルボニル-3-アミノ-1,2-プロパンジオールジステアロイルエステル(mPEG-DS) [Garbuzenko O. et al., Langmuir. 21:2560-2568 (2005)]である。PEG成分は、好ましくは、ヘッドグループの分子量が約750 Daから約20,000 Daである。より好ましくは、分子量は、約750 Daから約 12,000 Daであり、もっとも好ましくは約1,000 Daから約5,000 Daの間である。本発明で用いられる1つの特別なPEG-DSPEは、2000 Daの分子量を有し、本出願では2000PEG-DSPEまたは2kPEG-DSPEと名付けられる。
【0055】
そのような誘導体化脂質を含むリポソームの調製もまた記述されており、典型的に、1から20モルパーセントのそのような誘導体化脂質が、リポソーム製剤中に含まれる。
【0056】
リポソーム性製剤の調製は、緩衝剤、酸化防止剤、金属キレーター、および凍結防止剤といった水相成分に加え、適した脂質成分を選択することを含むということが、十分確立されている。ホスファチジルグリセロールといった、電荷誘導型脂質は、小胞-小胞融合を低減させおよび細胞との相互作用を増加させるためにリポソーム二重膜に取り込むことができるが、一方、コレステロールおよびスフィンゴミエリンを、封入された薬剤の透過性および漏出を低減するために製剤中に含めることができる。アスコルビン酸ナトリウムといった酸化防止剤の添加は、酸化を低減することができる。
【0057】
これらのリポソーム成分間の比率の変化は、リポソームの安定性を含むリポソームの薬理学的な性質を規定し、このことは、様々な種類の小胞の投与において、主として考慮されることである。明らかに、リポソームの安定性は、通常の医薬としての同様の基準を満たすべきである。化学的安定性は、リン脂質二重膜におけるエステル結合の加水分解および脂質鎖の不飽和部位の酸化の両方の予防に関与する。化学的な不安定性は、物理的な不安定性、または二重膜からの封入された薬剤の漏出ならびに小胞の融合および凝集を引き起こしうる。化学的な不安定性はまた、リポソームの血液循環時間の短縮を引き起こし、このことは、標的への効果的な接触および標的との相互作用に影響を及ぼす。
【0058】
本発明による好ましい製剤は、リポソーム形成脂質として卵PC(EPC)または水素化ダイズPC(hydrogenated soy PC)(HSPC)といったホスファチジルコリン、PEG化(2000Da)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)およびコレステロールを含む。明らかに、その他の脂質混合物は、異なる構成物の最終的な相加的充填パラメーターが約0.74から1.0の間であるならば、同一、同様または異なるモル比で使用してよい。
【0059】
本発明による医薬製剤は、高度に安定であることが証明された。GC誘導体、メチルプレドニゾロンスクシナート(コハク酸で修飾されたメチルプレドニゾロン)が上記の3つの構成物を含むリポソームに封入された、本発明の例示される実施態様では、4℃で14ヶ月保存された後において、GC誘導体は、わずかな減少(最初の濃度から20%未満)しか示さなかった(図3A−3B)。
【0060】
従って、本発明によると、「安定性」という用語は、通常の保存条件(4℃)において、リポソーム中にGC/GC誘導体の大部分(80%超、好ましくは90%超)が、6ヶ月間、好ましくは10ヶ月間およびより好ましくは14ヶ月間保持される製剤を意味する。それゆえ、本出願で使用される「本質的に保持される」という用語は、GCまたはGC誘導体の80%および好ましくは90%が、保存条件下でリポソーム中に約6ヶ月、好ましくは10ヶ月およびより好ましくは14ヶ月保持されることを意味する。好ましい実施態様の1つによると、リポソームの安定性は、立体的に安定化されたリポソーム(sterically stabilized liposome)(SSL)、すなわち親水性成分でコーティングされたリポソームの使用によって維持される。好ましい実施態様によると、SSLは、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、2000PEG-DSPEおよびコレステロールを55:40:5のモル比の組み合わせで含む。
【0061】
一般に、薬剤が取り込まれたリポソームを形成するために使用可能な薬剤充填方法は様々存在し、受動的な取り込みおよび能動的で間接的な充填が含まれる。受動的取り込み法は、リポソーム膜中への親油性薬剤の取り込み、および高度な水溶性を有する薬剤の取り込みに最も適している。イオン性親水性(ionizable hydrophilic)または両親媒性薬剤の場合、膜を介したイオン勾配に反してリポソーム中に薬剤を充填することにより、高い薬剤充填効率を達成することさえできる[Nichols, J.W., et al., Biochim. Biophys. Acta 455:269-271 (1976); Cramer, J., et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 75(2):295-301 (1977)] 。一般に間接的充填(remote loading)と呼ばれる、この充填方法は、典型的に、自然状態で両親媒性でありイオン化される基を有する薬剤を、H+濃度が内部で高く外部で低いおよび/またはイオン勾配を有するリポソームの懸濁液にそれを添加することを伴う。
【0062】
本発明に関連して使用されるリポソームは、好ましくは、間接的充填原理によって充填される。生成される製剤は、有意に高いGC誘導体と脂質の比を示した。好ましくは、GC誘導体と脂質の間のモル比は、0.01から2.0の間であり、より好ましくは、0.04から0.25の間である。GC誘導体の高度な充填のために、リポソーム中のそれらの濃度が、あらかじめ取り込まれていた対イオンの存在下でそれらが沈殿する濃度であることが時折好ましい。
【0063】
間接的充填における使用のためのリポソーム二重膜を介するH+および/またはイオン勾配を有したリポソームは、様々な技術によって作製することができる。典型的な方法は、適した有機溶媒に安定したリポソームを形成する比率で脂質の混合物を溶解し、容器(vessel)の中で蒸発させ薄い脂質フィルムを形成すること含む。そのフィルムを次に、溶質種を含む水性媒体で覆い、リポソームの内腔に水相が形成される。リポソーム形成後、小胞は、既知の方法に従い、選択した範囲内でリポソームのサイズ分布を達成させることにより、大きさごとに分けてよい。本発明に使用されるリポソームは、好ましくは、70から100 nmの間の範囲、好ましくは約80 nmに選択された大きさに分けられる。
【0064】
大きさごとに分けたあと、リポソームの外部媒体(external medium)は、リポソーム膜を介したイオン勾配をつくるよう処理される(典型的に、リポソームを形成するために使用されるもの同様の緩衝液)。該勾配は、典型的に、内部が高く外部が低いイオン濃度勾配である。これは、様々な方法によって行われ、例えば、(i)外部媒体を希釈する、(ii)所望する最終媒体に対して透析する、(iii) ゲル排除クロマトグラフィー、例えば、セファデックスG-50を使用し、所望の媒体を溶出のために用いて平衡化する、または(iv)高速遠心分離および沈殿したリポソームの所望の最終媒体への再懸濁を繰り返すことにより行われる。選択される外部媒体は、勾配の種類、勾配形成の機構、外部溶質および所望のpHに依存し、これらのことは以下に記載される。
【0065】
イオンおよび/またはH+勾配を作り出す単純な方法において、脂質は、選択された内部媒体pHを有する媒体中で、水和されおよび大きさで分けられる。リポソームの懸濁液は、外部のリポソーム混合物が、所望する最終pHに達するまで滴定され、または上述のように、外部の相の緩衝液と所望する外部pHを有するものとを交換するよう処理される。例えば、元々の水和媒体は、特定の緩衝液、例えば、グルタミン酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸緩衝液中で、5.5のpHを有してよく、および最終的な外部媒体は、同一または異なる緩衝液中で8.5のpHを有す。これらの緩衝液の共通の特性は、それらが、酸から作られ、本質的にリポソーム不透過性であることである。内部および外部媒体は、好ましくは、例えば、緩衝液、塩、または、ブドウ糖もしくはショ糖といった低分子量非電解性溶質の濃度を適当に調節することにより、同じモル浸透圧濃度を含むように選択される。
【0066】
別の一般的方法において、勾配は、リポソーム中に特定のイオノフォア含むことによって作られる。例証すると、カリウム緩衝液中にて、リポソーム二重膜中にバリノマイシンを含むようリポソームを作製し、大きさで分け、次に、外部媒体をナトリウム緩衝液と交換すると、内部にカリウム/外部にナトリウムという勾配ができる。内部から外部方向へのカリウムイオンの移動は、順番に、内部が低く外部が高いpH勾配を作り出すが、これは恐らく、リポソーム膜を介して、正味の電気的陰性電荷に応じてリポソーム中にプロトンが移動するためである[Deamer, D. W., et al., Biochim. et Biophys. Acta 274:323 (1972)]。
【0067】
同様な方法は、脂質を水和し、および高濃度の硫酸マグネシウム中で、形成された多重膜リポソームを大きさで分けることである。硫酸マグネシウム勾配は、ショ糖中で、20mM HEPPES緩衝液(pH 7.4)に対して透析することで作られる。次に、A23187イオノフォアが添加され、個々のマグネシウムイオンに対して2つのプロトンが交換されるマグネシウムイオンの外向きの移行が起こり、そして、リポソーム内が高くリポソーム外が低いプロトン勾配が確立される[Senske DB et al. (Biochim. Biophys. Acta 1414: 188-204 (1998)]。
【0068】
別のより好ましい方法において、薬剤充填のために使用されるプロトン勾配は、リポソーム膜を介したアンモニウムイオン勾配の形成によって作られ、その例は、米国特許第5,192,549号および第5,316,771号に記載されており、これらは本出願に援用される。リポソームは、アンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等であり、典型的に0.1から0.3 Mのアンモニウム塩を、例えば5.5から7.5の適したpHで含む水性緩衝液中で作られる。勾配はまた、水和媒体中に、デキストラン硫酸アンモニウム塩、硫酸ヘパリンアンモニウム塩またはスクラルファートといった硫酸化ポリマーを含むことで作ることができる。リポソーム形成および大きさで分けた後、外部媒体は、アンモニウムイオンを欠くものと交換される。この方法において、充填の間、両親媒性弱塩基は、アンモニウムイオンと交換される。
【0069】
さらに、別の方法が、US 5,939,096に記載されており、これは本出願に援用される。簡単には、この方法は、酢酸といった弱酸塩が関わるプロトンシャトル機構を用い、該弱酸のプロトン化形態が、リポソーム膜を介して移行し、内部が高く外部が低いpH勾配を作り出す。両親媒性弱酸化合物は、次に、あらかじめ形成されたリポソーム対する媒体に添加される。両親媒性弱酸は、この勾配に応答してリポソーム中に蓄積し、および陽イオン(すなわちカルシウムイオン)促進性沈殿またはリポソーム膜の低透過性によってリポソーム中に保持されてよく、すなわち、両親媒性弱酸は、酢酸のとの交換体(exchanges)である。
【0070】
GCまたはGC誘導体が充填されたリポソームは、様々な方法で投与されてよい。当該技術において知られるような生理学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて処方されてよい。本発明に従って使用される医薬的に許容可能な賦形剤は、一般に、好ましくはリポソームと反応しない、不活性で非毒性の物質を含む。賦形剤は、従来用いられている何れかのものであってよく、可溶性およびリポソームとの反応性の欠如といった化学的-物理的な考慮ならびに投与経路によってのみ限定される。賦形剤はまた、しばしば、リポソーム性製剤の安定性の改善、排除率の低下、徐放特性の付与、好ましくない副作用の低減等のために、標的組織へのリポソーム性製剤の送達または浸透の改善の効果を有する。賦形剤はまた、摂取に適した風味を有した製剤の提供等のために、製剤を安定化する物質(例えば、保存剤)であってよい。賦形剤は、添加剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、崩壊剤、加湿剤、保存剤、調味剤、および医薬的に適合した担体を含んでよい。例として、神経変性症状を治療する場合、賦形剤は、血液脳関門(BBB)を通過した侵入を促進(promote)または亢進(facilitate)することが知られている分子、例えば、トランスフェエリン受容体結合剤、抗体、またはそれ自身でBBBを通って移動する何れかの薬剤であってよい。
【0071】
本発明による医薬組成物は、様々な症状、典型的に、(その症状の経過において、少なくともある局面でGCを投与することにより)治療されることが知られている症状の治療に有効であってよい。そのような症状の例には、以下に詳しく述べられるような、神経変性症状および癌を含む。この目的のため、本発明によるリポソーム性製剤は、GCまたはGC誘導体に加えて、1以上の活性成分を含んでよい。付加的な活性成分は、遊離した形態であってよく、また(GC誘導体を含むリポソームと同じまたは別の)リポソーム中に封入されていてもよい。例えば、癌の治療の場合、付加的な活性成分は、同じまたは異なるリポソーム中に封入された、ドキソルビシンといった細胞毒性薬剤であってよい。神経変性障害の治療のおいては、リポソーム性製剤は、コパクソン(Copaxone)またはベタフェロン(Betaferone)と併用してよい。
【0072】
以下は、本発明によるリポソーム性製剤によって治療または予防してよい医学的症状の非限定的な一覧であり、GC治療によって利益を得ることが知られる、さらなる症状もまた、本発明の範囲に含まれる:
内分泌性疾患、一次または二次副腎皮質不全を含む;癌、非化膿性甲状腺炎に関連する先天性副腎過形成高カルシウム血症(Congenital adrenal hyperplasia Hypercalcemia)。
膠原病、例えば、以下の皮膚科学的疾病の特定の症例において、悪化の間、または維持療法としてのものを含む。
皮膚科学的疾病、例えば、天疱瘡水胞性皮膚炎、重篤な紅斑多発-ヘルペス状形成(Severe erythema multi-herpetiformis forme)(スティーブンス-重症脂漏性ジョンソン症候群)皮膚炎、剥脱性皮膚炎、重症乾癬、菌状息肉腫。
アレルギー性状態、例えば、以下の症状における通常の治療の適当な治験に対して非応答性の、重篤なまたは不能化するアレルギー性症状(severe or incapacitating allergic conditions)の制御を含む:気管支喘息、薬剤過敏症接触性皮膚炎反応、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹浸透(Urticarial transfusion)、血清病反応、季節性または長期性、急性非伝染性アレルギー鼻炎喉頭浮腫(Seasonal or perennial, Acute noninfectious allergic rhinitis laryngeal edema)。
眼病、例えば、眼に関する重篤な急性または慢性アレルギー性および炎症性過程を含み、例えば:眼部帯状ヘルペス、交感性眼炎虹彩炎、虹彩毛様体炎前区脈絡網膜炎散在性後部ブドウ膜炎(iridocyclitis Anterior segment Chorioretinitis inflammation Diffuse posterior uveitis)、アレルギー性結膜炎および脈絡膜炎、アレルギー性角膜縁、視神経炎潰瘍、角膜炎。
呼吸器疾患、例えば、その他の劇症または播種性によって処理できるベリリウム症ではなく、その他の手段によって処理できない、症候性サルコイドーシスレフレル症候群、吸入性肺炎、任意に適した抗結核化学療法が同時に使用される結核を含む。
血液病、後天性(自己免疫)溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、続発性血小板減少症、赤芽球減少症(RBC貧血)、先天性(赤血球)再生不良性貧血。
腫瘍性疾患、例えば、:白血病およびリンパ腫、骨髄腫、乳がんおよび前立腺癌の管理を含む。
浮腫状状態、例えば、特発性型のまたはエリテマトーデスを原因とする、尿毒症をのぞく、ネフローゼ症候群において、利尿またはタンパク尿症の緩和の促進を含む。
神経系、例えば、多発性硬化症(MS)の急性悪化を含む。
【0073】
適した抗結核化学療法と同時に使用される場合のくも膜下ブロックまたは切迫ブロック(impending block)を伴う結核性髄膜炎;神経または心筋に関する旋毛虫症といったその他の症状も同様である。
【0074】
従って、本発明はまた、疾病または病理学的症状の治療または予防の方法であって、前記治療が必要な患者に対し、本発明によるリポソーム性製剤を、疾病または病理学的症状を治療または予防するのに有効な量(以降「有効量"effective amount"」とする)で与えることを含む方法に関する。本発明によって治療される好ましい症状は、癌および神経変性症状である。
【0075】
本出願にて使用される「治療」という用語は、疾病に関連する望まれない症状の改善、そのような症状が生じる前においての発症の予防、疾病の進行の鈍化、疾病に関連する症状の悪化の鈍化、疾病の緩解期間の開始の増強、疾病の進行性慢性段階に起因する何れかの不可逆的ダメージの鈍化、前記進行性段階の開始の遅延、重症度の軽減または疾病の治癒、疾病からの生存率の改善または回復の促進、疾病形態の発生(disease form occurring)の予防、または上述したものの2以上の組み合わせに効果的な、リポソームに封入されたGCまたはGC誘導体を投与することを指す。
【0076】
例えば、神経変性症状と言う場合、治療は、神経系の異常な悪化の阻害または鈍化、ならびに神経変性症状を発症する傾向の強い(医学に精通した当業者の検討によって決定される)患者においての予防、または慢性的な疾病の状態の患者において神経変性症状の急性段階の再発の予防を意味する。後者の場合、リポソーム性GC誘導体を含む医薬組成物は、神経変性症状を示さないが、例えば活性酸素種(reactive oxidative species)の異常な生成を引き起こすことが知られる薬剤に曝された結果、そのような症状を発症するリスクが高い患者、または家族に病歴(すなわち、遺伝的素質)がある患者に投与してよい。
【0077】
さらに、例えば、疾病が癌である場合、治療は特に、以下のことを含む腫瘍細胞の成長および増殖の阻害または低減を指す:原発腫瘍の成長抑止、または癌が関与する死亡率の低下、または癌が関与する死亡の遅延(これらは結果として腫瘍の大きさの縮小または個人の体内からのその完全な除去をもたらす可能性がある)、または転移性腫瘍の発生率の低下、または個人に現れる転移性腫瘍の数の低下。
【0078】
リポソーム性GC誘導体は、一回投与(single dose)で提供されてよく、しかしながら、好ましくは治療を必要とする患者に対し、数日間にわたり一回投与を行うといったように、1日1回の投与で、1日複数回の投与で、長い期間または時間にわたり(例えば、累積的に有効量を満たして)投与される。治療法および投与すべき特定の製剤は、治療する疾病の種類に依存するであろうし、例えば医師といった医学に精通した当業者に知られる様々な検討によって決定されてよい。
【0079】
「有効量」または「治療的な有効量」という用語は、所定の治療法にてリポソーム中に充填される場合に、所望の効果、例えば、腫瘍細胞の成長および増殖の阻害または低減、または神経細胞の劣化およびそれによる神経系の悪化の阻害または低減を達成するのに十分なGC誘導体の量を意味するよう本出願において使用される。量は、当該分野において知られるような症状によって決定され、治療する症状の種類および重症度ならびに治療法に依存する。有効量は、典型的に、適切に設計された臨床試験(投与量変動試験)において決定され、当該技術に精通した人は、有効量を決定するために、そのような試験を適切にどのように行うかがわかるだろう。一般に知られるように、有効量は、投与の様式、両親媒性弱酸/塩基を保有する媒体(vehicle)の種類、GC誘導体の反応性、リポソームの体内における分布プロファイルを含む様々な因子、リポソームから放出された後の体内における半減期といった様々な薬理学的パラメーターに依存し、望ましくない副作用に依存し、場合によって、治療する患者の年齢および性別といった因子などに依存する。
【0080】
「投与」という用語は、リポソーム性製剤を患者に対して、患者の所望の部位にそれらを送達するのに適した何れかの経路によって、接触させる(contacting)または分配する(dispensing)、与える(delivering)または塗布(applying)することを意味するよう使用され、前記経路には、経口、非経口(皮下、筋肉内および静脈内、動脈内、腹腔内を含む)および鼻腔内投与、ならびにくも膜下腔内および注入技術による投与を含む。
【0081】
実施態様の1つによると、本発明によって使用される製剤は、注射に適した形態である。注射可能な製剤のための有効な医薬媒体(pharmaceutical medium)の要件は、当該技術の当業者に周知である[harmaceutics and Pharmacy Practice, J.B. Lippincott Co., Philadelphia, Pa., Banker and Chalmers, eds., pages 238-250 (1982)およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Toissel, 4th ed., pages 622-630 (1986)参照]。
【0082】
ヒトは、一般に、本出願で例示されるような実験動物よりも長く治療され、治療の長さは、疾病の進行および活性のある薬剤の有効性の長さに比例するとされている。投与量は、数日の期間にわたる、1回の投与量または複数回の投与量であってよい。
【0083】
以下の開示では、動物モデルによる実験データを提供するが、動物モデルからヒトへと投与量を変換するには、様々な適用可能な方法がある。例えば、おおよその体表面面積(BSA)を計算する方法は、BSAが体重(BW)の0.67乗に等しいとする、体重(BW)に基づく単純で非比例的な関係を利用する[Freireich E.J. et.al. Cancer Chemother. Reports 1966, 50(4) 219-244、およびDosage Regimen Design for Pharmaceutical Studies Conducted in Animals, by Mordenti, J, in J. Pharm. Sci., 75:852-57, 1986にて分析されている]。さらに、BSAデータのアロメトリーおよび表が確立されている[Extrapolation of Toxicological and Pharmacological Data from Animals to Humans, by Chappell W & Mordenti J, Advances in Drug Research, Vol. 20, 1- 116, 1991 (published by Academic Press Ltd)]。
【0084】
投与量を変換する別の方法は、濃度時間曲線下面積(AUC)を用いた薬物動態学に基づく方法であり、また生理学的薬物動態(Physiologically Based PharmacoKinetic )(PBPK)法が記載されている[Voisin E.M. et al. Regul Toxicol Pharmacol. 12(2):107-116. (1990)]。
【0085】
本発明は、EAEおよびリンパ腫細胞におけるSSL-MPSの効果について、非限定的に以下に記載される。
【実施例】
【0086】
[一般]
材料
水素化ダイズホスファチジルコリン(hydrogenated soybean phosphatidylcholine)(HSPC)は、Lipoid KG (Ludwigshafen, Germany)より得た。
【0087】
N-カルバミル-ポリ-(エチレングリコールメチルエーテル)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミントリエチルアンモニウム塩 (PEG-DSPE)(このリン脂質のポリエチレン部分は、2000 Daの分子量を有する)は、Genzyme Liestale, Switzerlandより得た。
【0088】
コレステロール(>99% 純粋)は、Sigma (St. Louis, MO, USA)より得た。
【0089】
[3H] コレステリルヘキサデシルエーテル(1 mmol当り45 Ci)は、NEN Life Science Products (Boston, MA, USA)より得た。tert-ブタノール(99%純粋)は、BDH, Poole, UKより購入した。
【0090】
弱酸ステロイド、プロドラッグ・メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(MPS)およびヒドロコルチゾンナトリウムヘミスクシナート(HYD)、はPfeizer, Belgiumから得た。
【0091】
緩衝剤を含むその他の全ての化学薬品は、分析用の等級かそれより良い等級であり、Sigmaより得た。精製水は、WaterPro PS HPLC/Ultrafilter Hybrid model, (Labconco, Kansas City, Mo., USA)から得た。
【0092】
方法
リポソームの作製
モル比55:40:5であるHSPC/コレステロール/PEG-DSPE-2000の貯蔵液を、70℃でエタノールに溶解し、ゲル脂質の終濃度を62.5%(w/v)とした。次に、溶液を、全ての脂質が溶解し透明な溶液となるまで70℃でインキュベートした。貯蔵液を次に、200 mMの酢酸カルシウムの溶液に70℃で加え、10%脂質濃度(w/v)とし、それゆえエタノールの終濃度は16%(w/v)となった。混合物は、70℃で一定に撹拌し乳白色の分散液とし、この段階で、脂質は水和され多重膜リポソームの分散液が形成された。
【0093】
形成された小胞は、400-nmで始まり50-nmで終わる一定の細孔サイズを有するポリカーボネートフィルターを通して押し出し(extrusion)、小型化を行った。押し出しの最終段階では低圧から中間の圧力で行た。この工程により、リポソームは80±15-nmとなった。押し出し装置(Northern Lipids, Canada)は、全工程において70℃の一定温度に保った。
【0094】
酢酸カルシウムの勾配{リポソーム中の[酢酸カルシウム]>>媒体中の[酢酸カルシウム]}を作るため、リポソーム外酢酸カルシウムの除去を、4℃で5%ブドウ糖または0.9%生理食塩水に対して透析して行った(それぞれ100量で4回交換、最後の1回は一晩おこなった)。
【0095】
リポソームのリン脂質濃度は、修正バートレット法[Shmeeda, H., et al. In: Methods in Enzymology “Liposomes”, (Duzgunes, N., ed.), 367:272-292 (2003)]により、有機リン濃度から決定した。作製されたリポソーム貯蔵液中の脂質濃度は〜40 mMであった。
【0096】
リポソーム内のカルシウムの量は、原子吸光分光測定(AAS)を用いて決定した。
【0097】
放射性SSLの作製および特徴決定
HSPC:Chol:2000PEG-DSPE (モル比55:40:5)および極微量の[3H]コレステリルヘキサデシルエーテル(0.125 μCi/μmol PL)で構成される[3H] コレステリルエーテル-ラベル化立体安定性リポソーム(SSL)は、上述の通りに作製した。リポソームサイズは、Dynamic Light Scattering (DLS)で決定し、87±15 nmであった。
【0098】
リポソーム中へのGC誘導体の導入
メチルプレドニゾロンヘミスクシナートナトリウム塩(MPS、GC誘導体)の貯蔵液を5%ブドウ糖(pH 7.2)に溶解し、〜9 mg/mlの濃度とし、あらかじめ作製しておいた酢酸カルシウム勾配を確立した後のSSL分散液に加えた。MPS濃度は、〜9 mg/mlであり、リン脂質は、〜32 mMリン酸であった。
【0099】
充填は、上述の構成成分を、所望される時間、62度(上述のマトリックス脂質のTm)でインキュベートすることで達成された。リポソームは次に、4℃に冷却し、4℃で5%ブドウ糖に対して透析し、充填中に放出された酢酸を除去しおよび充填されなかった薬剤を除き、またあるいは、充填されなかった薬剤を、イオン交換Dowex 1x400 メッシュ (Cl- 型)で除去した。
【0100】
MPSの凝集の状態、分配係数および表面張力
1. MPSの凝集の状態
MPSの凝集は、MPSが光吸収を欠く条件(励起および発光が、同じ波長、Ex= 600nm Em= 600nm)で分光蛍光分析器を用いて、励起ビームに対して90度に散乱する光の強度として測定される、濁度における変化から決定した。凝集の形成により、MPS溶液/分散液により散乱される光が大きく増加する。
【0101】
濁度としても定義される、散乱光の強度(90度における励起)は、凝集体の濃度およびサイズに比例する[Zuidam, N.J. and Barenholz, Y., Biochim. Biophys. Acta 1368:115-128 (1998)]。MPSの凝集の状態は、以下の様式に従って試験した:石英キュベットに〜6.5 mg/mlの濃度でMPSを加えた。溶液は、HCl(1.756M)で滴定し、励起および発光(ともに1%の減弱をともなう600 nm)による光散乱および溶液のpHを測定した。
【0102】
2.分配係数
あるGC誘導体(両親媒性弱酸)の分配係数(logD)は記述される通りに[Samuni, A.M. and Barenholz, Y., Free Radicals Biol. Med. 22:1165-1174 (1997)]、「振盪フラスコ(shake flask)」によって決定した。
【0103】
3.表面張力
表面張力はμtrouge S (Kibron Inc., Helsinki Finland)を用いて測定した。純水および空気を用いてセンサーのキャリブレーションおよびゼロ点補正を行った後、GC誘導体を含む溶液(300 μL)をウェルに入れた。測定は、26℃で行った。
【0104】
SSL内でのMPSの沈殿
小胞のリポソーム内水相でのMPSの沈殿を、記述されるとおりに、Cryo TEMを用いて視覚化した[Lasic, D.D., Frederik, P.M., Stuart, M.C.A., Barenholz, Y. and McIntosh, T.J., Gelation of liposome interior. A novel method for drug encapsulation. FEBS Lett. 312, 255-258 (1992); Lasic, D.D., et al. Biochim. Biophys. Acta 1239, 145-156 (1995)]。
【0105】
沈殿実験
63℃および異なるpH値で、600 mOsmの酢酸カルシウム溶液に、MPSを加え終濃度5 mg/mlとし、次に混合溶液を40分間インキュベートし、溶液を遠心し、上清をHPLCにて分析した。
【0106】
充填効率
充填効率とは、MPS/リン脂質濃度の充填前後における比である。MPSの定量化は、1981年にAndersonおよびTaphouseによって記載される通りに[Anderson B.D. and Taphouse. V. J Pharm Sci, 70:181-6 (1981)]、HPLC装置にて行い、リン脂質の定量化は、修正バートレット法[Shmeeda, H., et al. In: Methods in Enzymology “Liposomes”, (Duzgunes, N., ed.), 367:272-292 (2003)]にて行った。
【0107】
安定性の決定
リポソームからのMPSの放出の決定
SSL-MPSから放出されるMPSのレベルの決定は、まず、セファロースがクロスリンクされたCL-4Bカラムによるゲル排除クロマトグラフィーを用いて、遊離MPSからリポソームを分離した。リポソームは、空隙容量にて溶出され、遊離MPSは、その後の画分に溶出された(図3A-3B)。
【0108】
4℃での保存の安定性および80%血漿中における37℃での放出の動力学は、上述のゲル排除クロマトグラフィーにて決定した。次に、異なるカラム画分を上述の通りに、空隙容量中のMPS、リン脂質およびカルシウムを調べるために分析した。
【0109】
加えて、SSL-MPSを、80%ヒト炎症性関節液とともに、80%血漿の割合にて、37℃でインキュベートした。その後、異なる時点ごとに、サンプルを、陰イオン交換樹脂、DOWEX 1x400メッシュ (Cl- 型)とともにボルテックスした。該樹脂は、遊離MPSとのみ結合する。サンプルは、MPSを封入したリポソームおよびリポソームのリン脂質含量の測定を行った。
【0110】
結果
以下の表1は、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) [Software Solaris V4.67 ( 1994-2005 ACD/Labs) SciFinder SCHOLAR Version 2004.2 (著作権) American Chemical Society 2004]を用いて計算される、試験したGC誘導体のlogDおよびpKaを示している。
【表1】

【0111】
MPSの濁度、分配係数および表面張力
MPSの濁度(凝集を表す)を決定した。図1Aに示される結果は、両親媒性弱酸誘導体(プロドラッグ)が、pH 7.2において非凝集性の水溶性であり、酸性pHにおいて凝集し、それゆえ濁度が増加することが示されている。異常に低いpHにおいて観察される濁度の低下は、非常に大きな凝集体が形成され沈殿したためである。破線矢印は、HClによる滴定(H+のμmol、矢印の左側)からNaOHによる滴定(OH-のμmol、矢印の右側)への移行の点を示している。
【0112】
MPSの分配係数は、様々なpH値にて決定された。図1Bに示される通り、MPSは実際に両親媒性物質である。
【0113】
さらに、MPSの表面張力が決定され、図3Cで明らかな通り、MPSは、使用される全ての濃度(0.785 - 30mM)において界面活性を有し、〜5 mMのCAC(臨界会合/凝集濃度)点を有す。一方で、リン酸デキサメサゾンといったリン酸基(強酸基)を有するGCは、少なくとも50 mMの濃度までは界面活性を有さず、自己会合しミセルおよび/またはその他の組織的な集合体を形成しなかった。
【0114】
カルシウムイオンによるMPSの沈殿
酢酸カルシウム溶液の存在下のMPSの沈殿を、上述の通りに決定した。表2は、カルシウムイオンの存在下、すなわち様々なpHにおいて沈殿するMPSの濃度を示している。示される通り、沈殿は、pH 6.8においてすでに生じた。沈殿は、GCのpKa付近のpH(pH 4.5)において、非常に莫大な量まで増大した(MPSの97%)。
【表2】

【0115】
様々なリポソーム性製剤の一般的充填効率
1.リポソーム充填効率
3つの独立した処理単位(データから確認される)を、薬剤のリポソーム(HSPC:Chol:2000PEG-DSPE (54:41:5 モル比))中への充填効率を決定するために使用した。表3に、その結果が要約される。
【表3】

【0116】
2.様々なリポソーム性製剤のMPSの充填効率
効率的な充填の最適な条件は、酢酸カルシウムが〜600 mOsmであることを含む。このMPS/リン脂質比を有したHSPC:Chol:2000PEG-DSPE (55:40:5 モル比)リポソームにおけるMPSの充填効率は、最初のプロドラッグ濃度を、5-10 mg/ml、好ましくは9 mg/mlとした場合に得られた。最初の製剤のプロドラッグの濃度は、〜6.5 mg/mlであり、この濃度を、以下の実験において使用した(以下にSSL-MPS製剤または簡単にSSL-MPSと名付けられる)。
【0117】
図2A−2Bは、充填の前(図2A)および後(図2B)のリポソームのCryo-TEM画像であり、リポソーム内部の水性空間に沈殿物が位置することが明らかに示されている。
【0118】
リポソーム性製剤の安定性
14ヶ月にわたるSSL-MPS中のMPSの濃度(すなわち、劣化してない(intact)リポソーム性製剤)を上述の通りに決定した。図3Aから、14ヶ月後において、MPSの〜80%がリポソーム中に維持されていることがわかる。遊離MPSの一部は、加水分解されその活性型、メチルプレドニゾロン(MP)となった。図3Bは、4℃で14ヶ月保存した後のリポソーム性製剤のセファロース4Bサイズ排除クロマトグラフを示す。画分8から17のグラフの拡大(図3C)は、遊離MPSならびに遊離MPの存在を示している。
【0119】
さらに、SSL-MPSの臨床に関連した環境での安定性を定量した。図4は、ヒト血漿でのリポソーム製剤の安定性を示している。MPSが放出される条件において封入性リポソームに封入されるカルシウムの100%が保持される(リポソーム中の半減期は50時間)ということは、リポソームは、血漿中で少なくとも66時間劣化しないままであることを示している。このことから、MPSの放出は、その両親媒性という性質によることが示唆される。MPS放出の半減期は、静脈内注射後の血漿中のSSL半減期と同程度の値である。
【0120】
実施例1−多発性硬化症(MS)
プロテオリピドタンパク質(PLP)を用いた実験動物モデルにおける急性EAEの誘導
6−7週齢のメスのSJLマウスに、プロテオリピドタンパク質(PLP) 139-151ペプチドおよび完全フロイントアジュバント(CFA)を含む乳剤であって、ペプチド150μgおよびMycobacterium tuberculosis 200μgを含む乳剤を皮下注射することで免疫化した。追加免疫するために、百日咳毒素(PT)150 ngを、初日および48時間後にマウスに腹腔内(i.p.)注射した。
【0121】
それぞれのマウスは、以下の表4を用いて、臨床的な徴候を毎日試験した。
【表4】

【0122】
それぞれの動物群ごとの疾病を発症した(病気になった)マウスの数を合計し、そのパーセンテージを算出した。
【0123】
さらに、平均最大スコア(MMS)を、群のマウス10匹ごとの最大スコアを合計し、次式に従って、その値から平均最大スコアを算出した:
Σそれぞれのマウスの最大スコア/群のマウスの数。
【0124】
さらに、日数で表される平均疾病期間(MDD)を、以下の式に従って計算した:
Σそれぞれのマウスの疾病期間/群のマウスの数。
【0125】
さらに、それぞれの群の平均スコア(GMS)(疾病負荷(burden of disease))を、群のマウス10匹ごとのスコアを合計し、次式に従って、1日当りの平均スコアを計算した:
Σ1日当りのそれぞれのマウスの合計スコア/群のマウスの数。
【0126】
SSL-MPSを用いたEAEの治療
EAE誘導マウスを、表5に従い治療群に分けた。
【表5】

【0127】
試験は3週間続け、EAEの臨床的徴候を様々な時点で判定した。それぞれの群において、発生率、MMS=平均最大スコア;MDD=平均疾病期間(日数);MDO=平均発症日数および平均スコアを決定した(表6)。さらに、それぞれの群において、平均臨床スコアをそれぞれの時点で決定した(図5)。
【表6】

【0128】
重篤な疾病負荷の治療
重篤な疾病負荷(severe disease burden)を示すマウスに対して(群のマウス10匹ごとのスコアを合計し、次式に従って、1日当りの平均スコアを計算することで決定:Σ1日当りのそれぞれのマウスの合計スコア/群のマウスの数)、異なる治療を適用した。具体的には、上記の通り免疫化した後、マウスに、50 mg/kg BWのSSL-MPS(10、14、18日目)で、または遊離MPS(10、14、18日目)で、または5%ブドウ糖(10、14、18日目)で処理した。それぞれの群において、発生率、MMS=平均最大スコア;MDD=平均疾病期間(日数);MDO=平均発症日数および平均スコアを決定した(表7)。さらに、それぞれの群において、平均臨床スコア(図6B)ならびに生存曲線(図6A)を決定した。
【表7】

【0129】
対照群(未治療)において9匹の内6匹が死亡し、対照群の平均臨床スコアでは高い値を示したという事実から、発生した疾病が重篤なものであったことが確認される(軽度の疾病を発症した動物における効果を示す表6との比較から;表6では、マウスは1匹も死亡せず、未治療対照群における疾病の平均スコアは2未満であった)。
【0130】
図6Aの生存曲線および図6Bの平均臨床スコアもまた、ともに疾病が重篤な平均スコアを伴って発生したことを示している。
【0131】
重篤な疾病の負荷を示した動物に関して得られた、以下の点に注目すべきである:
1.対照群および遊離MPS群において死亡する個体が確認された一方で、SSL-MPSで治療した群では全ての動物が生存した;
2.19日において(図6B)、SSL-MPSによる治療群は、0に近づき、対照的に遊離MPSで治療した群または対照群は、それぞれ〜3および〜4.8であった;
3.SSL-MPS治療群の疾病の平均スコア(表5)は、対照群のスコアの4倍低く、遊離MPS治療群の〜2倍低かった。
【0132】
従って、SSL-MPSは、遊離MPSと比較して、疾病の重篤な状態の間において、有利な治療的効果を有すると結論された。
【0133】
急性EAEモデルにおける、通常のMS薬剤との比較
メスのSJLマウス(6−7週齢)を、上記の通り免疫化した。免疫化したマウスを群に分け、それぞれの群に対して、免疫化後8、11および14日に、以下の治療製剤で処理した:
第I群 - 50mg/kg BW SSL-MPS;
第II群 - 遊離MPS 50mg/kg BW;
第III群 - 5%ブドウ糖;
第IV群 - コパクソン(Coapxone) 250ug/0.1 cc;
第VI群 - ヒトベタフェロン(Betaferon human) 2000ui/0.1 cc。
【0134】
それぞれの群において、発生率、MMS=平均最大スコア;MDD=平均疾病期間(日数);MDO=平均発症日数および平均スコアを決定した(表8)。さらに、それぞれの群において、平均臨床スコアをそれぞれの時点で決定した(図7)。
【表8】

【0135】
図7は、観察期間中の、様々な時点における臨床スコアを示している。観察されるとおり、平均疾病負荷におけるSSL-MPSの全体的な効果は、対照となる遊離MPS治療群の3倍低かった。さらに、SSL-MPSは、平均臨床スコアを、重篤なレベルの初期段階麻痺から尾の末端の脱力まで低下させる効果があった。SSL-MPS治療群では、マウスが1匹のみ死亡し、対照的にその他の群では3及び5匹の死亡頻度であった。
【0136】
従って、SSL-MPSは、現在臨床的に使用可能な薬剤よりもずっと有利な効果を示し、この製剤が、重篤な状態の初期段階麻痺から、軽減された麻痺へと平均臨床スコアを下げる能力を有すると結論される。
【0137】
MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)を用いた急性EAEの誘導
MOG 35-55ペプチドを用いた慢性EAEの誘導は、記載されるとおりに行った[Offen D et al J Mol Neurosci. 15(3):167-76 (2000)]。一般に、メスのC57B1/6マウスに、脳炎誘発性乳剤(MOGプラスMT (mycobacterium tuberculosis)が濃縮されたCFA)を接種した(右わき腹に皮下注射)。百日咳毒素を、接種の日および48時間後に、腹腔内注射(250 ng/マウス)した。MOG乳剤による追加免疫を、最初の注射の1週間後に右わき腹に皮下注射して行った。
【0138】
上記のように免疫化した後、マウスを、50mg/kg BW SSL-MPS(12、14、16日目)で治療した。それぞれの時点で平均臨床スコアを決定した(図8)。示される通り、SSL-MPSは、急性EAEの臨床的徴候の低減に効果的であった。
【0139】
実施例2−癌
副腎皮質ステロイドは、様々な種類の癌に対して治療的効果があることが示されており、癌治療、特に、血液学的悪性腫瘍(白血病、リンパ腫、骨髄腫)およびホルモン応答性癌(乳癌および前立腺癌)の治療において、広く使用されている。しばしば、副腎皮質ステロイドは、化学療法を含む治療法の枠組みに合わせて使用される[Lorraine I. McKay and John A. Cidlowski. corticosteroids Cancer Medicine e.5 B.C. Decker Inc., SBN 1-55009-113-12000. by BC Decker Inc. First published 1981. Fifth Edition 2000. 01 02 0 QP 9 8 7 6 5 4 3 Printed in Canada。
【0140】
実験の初日に、BALB/Cマウスに、100万のJ6456リンパ腫細胞(マウスT細胞リンパ腫)を腹腔内注射し、次に群に分け、以下の治療計画(表9)に従って、遊離MPSまたはSSL-MPSを静脈注射して治療した。治療の14日目に決定される生存率の中央値を決定した。その値も表9に示した。
【表9】

【0141】
上記の結果から、生存時間の中央値は、容量依存的にSSL-MPS治療によって延長されることが示された。
【0142】
さらなる実験にて、BCL-1(マウスB細胞リンパ様白血病)腫瘍を有するマウスの生存率を決定した。この試験によると、実験の初日において、BALB/Cマウスに、100万のBCL-1リンパ腫細胞(B細胞株、MPSのIC50はnモル濃度の範囲)を腹腔内注射した。次に、マウスを群に分け、5、9、12、16日目に、以下の治療製剤に従って静脈注射した:
第I群 - 5 mg/kg BW 遊離-MPS;
第II群- 25 mg/kg BW 遊離-MPS;
第III群- 5 mg/kg BW SSL-MPS;
第IV群- 50 mg/kg BW SSL-MPS。
【0143】
それぞれの群の生存中央値を決定し、表10に要約した。
【表10】

【0144】
図9に示される生存曲線は、遊離MPS群または対照群と比較して、SSL-MPSが有利な効果をもつことを示している。この細胞株は、MPSに対する感受性が高いということに留意することが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1A】図1A-図1Cは、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(MPS)の化学的特性を示すグラフであり、pHの関数としてのMPSの濁度(図1A);様々なpH値におけるMPSの分配係数(図1B);および、GC濃度の関数としてのメチルプレドニゾロンヘミスクシナートおよびリン酸デキサメサゾンの表面張力(図1C)を示す。
【図1B】図1A-図1Cは、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(MPS)の化学的特性を示すグラフであり、pHの関数としてのMPSの濁度(図1A);様々なpH値におけるMPSの分配係数(図1B);および、GC濃度の関数としてのメチルプレドニゾロンヘミスクシナートおよびリン酸デキサメサゾンの表面張力(図1C)を示す。
【図1C】図1A-図1Cは、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(MPS)の化学的特性を示すグラフであり、pHの関数としてのMPSの濁度(図1A);様々なpH値におけるMPSの分配係数(図1B);および、GC濃度の関数としてのメチルプレドニゾロンヘミスクシナートおよびリン酸デキサメサゾンの表面張力(図1C)を示す。
【図2】図2Aおよび図2Bは、MPSの能動的充填前(図2A)および後(図2B)における、リポソームのCryo-TEM(透過型電子顕微鏡)画像である。
【図3A】図3Aおよび3Bは、4℃で14ヶ月保存した後における、SSL-MPSのサイズ排除クロマトグラフィーであり、図3Bは、図3Aの画分8-17で示される区間を拡大した図であり、遊離-MPSおよびメチルプレドニゾロン(MP)が非常に引くい量で存在することが示されている。
【図3B】図3Aおよび3Bは、4℃で14ヶ月保存した後における、SSL-MPSのサイズ排除クロマトグラフィーであり、図3Bは、図3Aの画分8-17で示される区間を拡大した図であり、遊離-MPSおよびメチルプレドニゾロン(MP)が非常に引くい量で存在することが示されている。
【図4】図4は、血漿中でインキュベートしたときの、SSL-MPSからのMPSおよびCa+2の放出プロファイルである。
【図5】図5は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)における、SSL-MPSの効果を示すグラフである。
【図6A】図6Aおよび6Bは、EAE誘導動物の生存率(%)(図6A)および平均臨床スコア(図6B)における、SSL-MPS治療の効果を示すグラフである。
【図6B】図6Aおよび6Bは、EAE誘導動物の生存率(%)(図6A)および平均臨床スコア(図6B)における、SSL-MPS治療の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、ベタフォルミンおよびコパクソンという2つの従来の薬剤との比較による、EAEにおけるSSL-MPS治療の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、慢性EAE動物モデルにおける、SSL-MPS治療の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、BCL-1リンパ腫の生存における、SSL-MPS治療の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム中に封入されたグルココルチコイド(GC)またはGC誘導体を含む医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体が、本質的にリポソーム中に6ヶ月間保持され、前記GCまたはGC誘導体が以下から選択される医薬組成物:
i) pKaが11以下であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲である、両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;
ii) pKaが3.を超える値であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲である、両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体が、pKaが11以下でありpH 7におけるlogDが-1.5から1.0の間の範囲である両親媒性弱塩基;またはpKaが3.5を超える値でありpH 7におけるlogDが-1.5から1.0の間の範囲である両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体から選択される医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の医薬組成物であって、前記GC誘導体が、前記リポソームから体液中に放出されたときに活性型GCに転換されるプロドラッグである医薬組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の医薬組成物であって、前記GC誘導体が酸性グルココルチコイドである医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物であって、前記酸性GCが、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(methylprednisolone sodium hemisuccinate)(MPS)、ヒドロコルチゾンナトリウムヘミスクシナート(hydrocortisone sodium hemisuccinate)(HYD)、デキサメサゾンヘミスクシナート(Dexamethasone hemisuccinate)、プレドニゾロンヘミスクシナート(Prednisolone hemisuccinate)から選択される医薬組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の医薬組成物であって、前記リポソームがリン脂質を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の医薬組成物であって、前記リポソームが、リン脂質、リポポリマーおよびコレステロールの組み合わせを含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、前記リポソームが、水素化ダイズホスファチジルコリン(hydrogenated soybean phosphatidylcholine)(HSPC)、ポリエチレングリコールコーティングジステアロイルホスファチジルエタノールアミン (PEG-DSPE)およびコレステロールの組み合わせを含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の医薬組成物であって、前記リポソームが、立体的に安定なリポソーム(SSL)である医薬組成物。
【請求項10】
請求項6から請求項9の何れか1項に記載の医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体と前記リン脂質とのモル比が、0.01から2.0の間である医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、前記GCまたはGC誘導体と前記リン脂質とのモル比が、0.04から0.25の間である医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から11の何れか1項に記載の医薬組成物であって、神経変性障害の治療のための医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、多発性硬化症の治療のための医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から11の何れか1項に記載の医薬組成物であって、癌の治療のための医薬組成物。
【請求項15】
医薬組成物の作製のためのGCまたはGC誘導体の使用であって、前記GCまたはGC誘導体がリポソーム中に封入され、前記GCまたはGC誘導体が、本質的にリポソーム中に6ヶ月間保持され、GCまたはGC誘導体が以下から選択される使用:
i) pKaが11以下であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲である、両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;
ii) pKaが3.を超える値であり、pH 7におけるlogDが約-2.5から約1.5の間の範囲である、両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体。
【請求項16】
請求項14に記載の使用であって、GCまたはGC誘導体が、pKaが11以下でありpH 7におけるlogDが-1.5から1.0の間の範囲である両親媒性弱塩基GCまたはGC誘導体;またはpKaが3.5を超える値でありpH 7におけるlogDが-1.5から1.0の間の範囲である両親媒性弱酸GCまたはGC誘導体から選択される使用。
【請求項17】
請求項14または請求項15に記載の使用であって、前記GC誘導体が、前記リポソームから体液中に放出されたときに活性型GCに転換されるプロドラッグである使用。
【請求項18】
請求項15から請求項17の何れか1項に記載の使用であって、前記GC誘導体が、酸性GCである使用。
【請求項19】
請求項18に記載の使用であって、前記酸性GCが、メチルプレドニゾロンナトリウムヘミスクシナート(methylprednisolone sodium hemisuccinate)(MPS)、ヒドロコルチゾンナトリウムヘミスクシナート(hydrocortisone sodium hemisuccinate)(HYD)、デキサメサゾンヘミスクシナート(Dexamethasone hemisuccinate)、プレドニゾロンヘミスクシナート(Prednisolone hemisuccinate)から選択される使用。
【請求項20】
請求項15から請求項19の何れか1項に記載の使用であって、前記GCまたはGC誘導体が、リン脂質を含むリポソームに封入される使用。
【請求項21】
請求項20に記載の使用であって、前記GCまたはGC誘導体が、リン脂質、リポポリマーおよびコレステロールの組み合わせを含むリポソームに封入される使用。
【請求項22】
請求項21に記載の使用であって、前記リポソームが、水素化ダイズホスファチジルコリン(hydrogenated soybean phosphatidylcholine)(HSPC)、ポリエチレングリコールコーティングジステアロイルホスファチジルエタノールアミン (PEG-DSPE)およびコレステロールの組み合わせを含む使用。
【請求項23】
請求項15から請求項22の何れか1項に記載の使用であって、前記GCまたはGC誘導体が、立体的に安定なリポソーム(SSL)に封入されている使用。
【請求項24】
請求項20から請求項23の何れか1項に記載の使用であって、前記GCまたはGC誘導体と前記リン脂質とのモル比が、0.01から2.0の間である使用。
【請求項25】
請求項18から請求項22の何れか1項に記載の使用であって、前記グルココルチコイド誘導体と前記リン脂質とのモル比が、0.04から0.25の間である使用。
【請求項26】
請求項15から請求項25の何れか1項に記載の使用であって、神経変性障害の治療のための医薬組成物の作製のための使用。
【請求項27】
請求項26に記載の使用であって、前記神経変性障害が、多発性硬化症である使用。
【請求項28】
請求項15から請求項25の何れか1項に記載の使用であって、癌の治療のための医薬組成物の作製のための使用。
【請求項29】
体内の標的部位にグルココルチコイド(GC)を送達するための方法であって、請求項1から請求項14の何れか1項に定義されるように、前記GCを、その両親媒性弱酸誘導体または両親媒性弱塩基誘導体へと化学的に修飾することを含み、および該両親媒性弱酸誘導体または両親媒性弱塩基誘導体をリポソームに充填することを含む方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、前記GCが、水に不混和性のGCである方法。
【請求項31】
請求項29または請求項30に記載の方法であって、前記リポソームが、立体的に安定なリポソームである方法。
【請求項32】
請求項29から請求項31の何れか1項に記載の方法であって、前記GC誘導体が、リポソーム膜を介したイオンまたはpH勾配の形成によって、リポソーム中に充填される方法。
【請求項33】
疾病または障害の治療のための方法であって、該治療を必要とする患者に対し、請求項1から請求項14の何れか1項に定義される医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項34】
請求項32に記載の方法であって、神経変性障害の治療のための方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法であって、多発性硬化症の治療のための方法。
【請求項36】
請求項33に記載の方法であって、癌の治療のための方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−512446(P2008−512446A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530850(P2007−530850)
【出願日】平成17年9月11日(2005.9.11)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000963
【国際公開番号】WO2006/027787
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(399042546)イッスム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム (10)
【Fターム(参考)】